
地獄堂霊界通信シリーズ
香月 日輪[原作] みもり[漫画]
道徳の授業を覚えていますか?
この本を紹介しようと考えた時、「そういえば、道徳の授業内容はほとんど覚えていないなぁ」と唐突に思いました。
自分でもどうしてその様なことを思ったのか疑問に感じ理由を考えてみると、香月 日輪(こうづき ひのわ)先生の作品に初めて出会った時、「道徳の教科書、全部これにしてほしい!!」と感じたことがあったからだと、思い至りました。
そんな大人にも響く、三人の小学生の成長と怪異の物語。
原作:香月 日輪 漫画:みもりのタッグで送る、漫画版「地獄堂霊界通信シリーズ」をご紹介します。
神絵師 みもり
「三銃士」から「ズッコケ三人組」まで。古今東西、様々なトリオを主役にした名作が生まれてきました。
本作における主人公も地元に悪名を轟かす小学生三人組。人呼んで”イタズラ大王三人悪”です。
リーダーのてつしは喧嘩担当。中学生や大人にも怯まない胆の太さを持ち、「上院のてつ」の異名をもつガキ大将です。
そんなてつしの幼馴染であるリョーチン。泣き虫ですが誰にも負けない俊足と、動物を愛する心を持つ優しい男の子です。
参謀役の椎名は驚くほどの明晰さを持つお金持ちの男の子。弁が立ち知識も豊富な大人っぽい一面と、二人と一緒に見せる小学生らしい反応が微笑ましい優等生です。(勉学については)
洒落にならない悪戯で大人には煙たがられていますが、小学生ににカツアゲをした中学生を懲らしめたり、クラスメイトの相談に乗ったりと、同世代からは頼れる人気者として慕われています。
この見事に凸凹な三人がみもり先生の美麗な絵によって、イメージぴったりに描かれています。
原作で描写されていた容姿が忠実に表現されていることはファンにとって歓喜でしかありません。線や影は手描き感が強いので、快活な笑顔やコミカルなデフォルメは本当に可愛らしいです。
しかしながら、鋭く険しい目のアップの描写は色っぽいほどで、緊迫したシーンをよりキリキリと引き締めてきます。
ちなみに私のお気に入りはシーズン2で登場する化け物専門の殺し屋「ヴェレッド」です。
金髪の美女で、ハリウッドの女優さんのような大きな口の笑顔にドキッとしてしまいます。
世代・性別以前に、人外であることもあるキャラクター達。それを生き生きとした表情とともに見事に描き分け、これ以上ない!と思うほどに原作が再現された幸せな漫画になっています。
知らない世界への案内人
そんな三人の師匠役であるのが「地獄堂のおやじ」さんです。
本名不明。百歳以上生きているとの噂もあり、町の薬屋「極楽堂」の店主をやっています。
店主同様に不気味な雰囲気をたたえる店は「地獄堂」とも呼ばれ、小学生からは「恐怖のお使いスポット」と言われ忌避されています。
そんな店を訪れる直前に三人が聞いた女の幽霊の噂。
幽霊を哀れに思った三人が地獄堂を訪れ、おやじさんから札と呪文を授かったことから三人の怪異に関わる生活が始まります。
このおやじさん。三人悪へ怪異に対抗する術や知識を授けてくれるのですが、その一方で人や世の出来事に非常に冷徹な目線を持っています。
「地獄堂シリーズ」には、道を踏み外したもの・業の深いものが多く出てきます。
そんなものに対して、悪い奴は悪い、どうしようもない奴はどうしようもない。いっそ清々しいほどの断定の上にその末路を語り、三人を諭します。
このどうしようもない者たちは非常に生々しいです。
「隣の部屋で暮らしていてもおかしくない」「絶対に現実にいる」と感じると同時に、「これは自分でもおかしくない」と危機感と薄ら寒さを感じ、襟を正す思いにかられます。
そんな者たちに巻き込まれ、救いの手から零れ落ちてしまった人たち。
そういった人たちに対してもおやじさんは殊更に哀れんだりせず、達観した目線を送ります。
その理不尽に怒り悩み、受け止めて成長していく三人悪。
現実世界の暗がりを隠すことなく開示し、直視させたうえで考えさせる。
その子供に対する容赦のなさと導きが、綺麗なだけの教科書とは違う香月日輪作品の最大の魅力ではないかと思います。
シリーズ多数!!
子供心に感じていた世の中の暗部は、大人になってより濃さを増し現実としてそこにあります。
その暗部を暗部として捉え、そちらに引きずられないように手助けしてくれる力が香月日輪先生の作品たちにはあります。
残念なことに香月先生は2014年に逝去され、もう新しい作品は世に出ません。
それでも、みもり先生の絵により未だに新鮮な気持ちで「地獄堂霊界通信」を楽しむことができることに最大の感謝を捧げます。
あなたも厳しくも誠実なこの作品を楽しんでみませんか?
香月先生は多くのシリーズを残してくださいました。
てつし達より年上の、高校生が主人公の「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズもお薦めですよ。
ではまた。
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