「誰かに見守っていてほしい」と思った時に読みたい本

感想文

光の帝国 常野物語
恩田 陸[著]

お日様のあなた

「お天道様がみてる」と言いますよね。

「戒め」や「因果応報」の意味を持つ言葉ですが、私は「お日様(神様)がいつも見守っていてくれる」とも解釈しています。

今回ご紹介するのは、そんなお日様のように暖かな一族の家族史を兼ねた一冊です。

良き隣人

著者の恩田 陸先生は非常に多彩な書き手です。
まるでセピア色の写真のような文体で、様々なジャンルの作品を発表されています。

私と同世代の人は「六番目の小夜子」をご存じかもしれませんね。

そんな先生の「常野物語」シリーズ。
「常野物語 光の帝国」は10のお話を収録した連作短編集です。

とある一族の総称であり、彼らの聖地の名前でもある「常野」。
いわゆる超能力を持った一族で、それぞれの血筋に受け継がれた能力を駆使して生活しています。

このように書くと、スーパーマンのような超人的なイメージになってしまいますが、彼らは至って「平凡」です。

一つ目のエピソード「大きな引き出し」は、驚異的な「記録力」を持つ春田家のお話です。
主役は春田家の末っ子「光紀(みつのり)」君。春田家の能力のあり方に疑問を持つ小学4年生の男の子です。

春田家の人間は、膨大な知識をその身に蓄えることが出来るうえ、その知識には「人そのもの」も含まれます。一家で各地を転々としながら、土地と人に溶け込み生きています。

ご両親から能力については他言無用と言われて育ってた光紀君。同世代が記憶力を褒められている光景に「自分はもっと覚えているのに、それを言うことさえできない」と不満を抱きます。

そんないつもと違う様子の光紀君を心配したご両親とお姉さんの、会話の場面があるのですが、
それが余りにも普通のご家庭の一幕なのです。

「特別な力を持っている以外は、自分と同じ『人』なのだ」と強く共感を覚えたシーンです。
その共感はそのまま「私たちの近くにも『常野』が存在していてもおかしくない」という感覚に繋がっていきます。

特別な存在ながら、当たり前の生活を送る彼らがそばにいるように感じるのです。

生き字引「ツル先生」

冒頭で「家族史」と書きましたのは、短編ごとの時代設定が幅広く、一冊を通じて歴史を感じるからです。

その長い歴史の象徴のような「ツル先生」。
常野一族の長老で、複数の短編に登場します。

そんなツル先生も登場する表題作「光の帝国」。
戦時下の分教場を舞台とした、常野の悲劇を綴った物語です。

特別であるが故に、生きにくさを感じることも多い常野の民。
彼らや子供たちが心身を休めるために作られた場所は、戦争によって疎開先となっていきます。

行き場を失った者たちで協力して生きていましたが、そこに軍靴の音と悲劇がもたらされます。

長い歴史の中で迫害に会うこともあった常野一族。
何度も悲劇に見舞われつつも、現代まで続いてきました。

その歴史の悲喜こもごもを見てきたであろうツル先生。
現代を舞台としたお話に先生が登場することで、一族の壮大な道のりを感じ取ることが出来ます。

素朴で善良な彼らがこの時代まで生き延びてきたことには、人らしい強さを感じます。
それと同時に現代にいたるまでの彼らの歴史を読者として目撃したことで、彼らがいつでも傍にいてくれる存在のようにも感じられます。

お守りとして

見ることは見られることです。

当たり前に空にあり、長く私たちを見守ってきてくれた太陽のような「常野」の人たち。
そんな彼らに会える「常野物語 光の帝国」は、ずっと手元に置いておきたいお守り本です。

そばにいてくれるだけで安心できる。そんな彼らに会いに行ってみませんか?

それでは。

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