「”好き”を貫きたい!」と思った時に読みたい本

感想文

キノの旅 the Beautiful World
時雨沢 恵一[著]  黒星紅白[絵]

偏愛のススメ

皆さんは”偏愛”と呼べるほど好きなものはありますか?

私は本以外でしたら「紅茶のお菓子」が好きです。
茶葉を生地に混ぜたり、ミルクティー味のクリームやチョコレートをサンドしたり。
お店で新商品を見かけたら、ほぼオートでレジに持って行ってしまいます。

お腹周りを気にして「罪だなあ」と思いつつも、それを手にした瞬間の幸福には抗えません。
満足が大事。

でも、現代は余計な意見が目に入ることも多い時代。
アンチの意見を読んでしまって楽しい気分が萎えてしまったことは一度くらいありますよね?

今日はそんなあなたに、作者の”偏愛”が光る作品のご紹介です。

異種族(?)コンビの旅路

キノの旅 the Beautiful World」はKADOKAWAの電撃文庫より出版されている短編連作小説です。2025年9月にはシリーズ25周年にして24冊目が発売されました。

主人公は旅人の「キノ」。そして相棒はモトラド(オートバイのような架空の乗り物)の「エルメス」。この二人が訪れる国や、出会いを中心にした物語です。

おとぎ話のような穏やかな地の文に、現代人に刺さる皮肉のきいた結末。
淡々と紡がれるが故に際立つアクションや凄惨なシーン、予想の斜め上の選択に引きつつもどこか共感できてしまう登場人物たち。

そんな魅力あふれる作品ですが、1点「作者の情熱が半端ない」と感じる要素があります。

「銃」です。

作者の分かりやすい”偏愛”

作者の苗字「時雨沢」ですが、「シグサワ」と読みます。
これは銃器ブランドの「SIG SAUER」をもじったもので、ガンマニアたる作者の嗜好がそのまま出たペンネームであるでしょう。

キノも銃を携帯しており、作中にもその描写が多く出てきます。
時雨沢先生が手掛けた「キノの旅」以外のほとんどのシリーズでも銃が登場し、簡潔ながらそれはそれは細かく描写されていて、素人の私でも鮮明にイメージできるほどです。
最早、無いと物足りないと感じるでしょうね。

「時雨沢作品といえば銃」と言える程でありますが、その目立つ要素は作品にハッキリとした個性というか「味」を出しているように見えます。

私は本作には「牧歌的な雰囲気」がベースにあると感じています。(個人の感想ですが)

雄大な自然の描写から始まることが多いからだと思いますが、そこにファンタジーな設定やキャラクターが加わり、一見おとぎ話に似た世界観を構築しています。

その中で「銃」は無機質で現代的な、ある意味「異物」です。
それを殊更詳しく描写することで、さらに異物感が際立ちます。

このベースの雰囲気とギャップのあるスパイス的要素が作品を引き締め、また、唯一無二の作風の結構重要な要素になっているんじゃないかと読み返して思いました。

銃以外にも「自動車」や「巨大な建築」、「スチームパンク的機構」に「SF生物」まで。
時雨沢先生が好きなんだろうなあと感じる要素がてんこ盛りに、しかし世界を壊すことなく組み込まれています。

大好きなものを詰め込み、その熱量が伝わってくる。
「キノの旅」を読んでいると、好きなものを好きなだけ楽しんでいる様子に「自分もこれくらい好きに漬かりたい」とエピソードの余韻とともに思うのです。

”偏愛”に感謝を!!

学生時代にドはまりしてから20年以上。
私にとっては、かなり長くお世話になっている作品です。

この歳まで好きな作品が変わらずに続いてくれたのも、作者である時雨沢先生の”偏愛”あってこそですね。

やっぱり「好き」の力は偉大で、「好き」の探求は幸福であると感じますよ。

そんな、あなたの「好き」に推進力を与えてくれるかもしれない「キノの旅」。
ご新規さんにも優しい、どこから読んでも楽しめる構成になっていておすすめです。

それでは。

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