「”善意の邪推”に疲れた」ときに効く本

感想文

魔入りました!入間くん
西 修[著]

善意も慎重に

情報化による世界の広がりによって、新しい価値観がどんどん生まれています。

それは間違いなく人類の進歩ではあるのですが、「配慮」の形も昔とは違ってきましたよね。

財布を拾って届けるのも、子供に挨拶をするのも、女性にAEDを使用するのも気を遣う世の中。

ある年代以上の人ならば、そんな状況に違和感を感じつつも、諦めを持って受け入れているかもしれません。

「純粋な”善意”に気を使わなければならない」
そんな状況に対する息苦しさや、納得できないモヤモヤが軽くなる作品をご紹介します!

お人よしは嫌いですか?

ファンタジーが得意な生みの親

「魔入りました!入間くん」は週刊少年チャンピオンで連載中のファンタジー漫画です。
Eテレにてアニメ化もされ、小・中学生だけでなく大人にも人気のコンテンツと言えるでしょう。

作者は西 修(にし おさむ)先生
ジャンプSQで冥界のホテルを舞台にしたドタバタ劇「ホテル ヘルヘイム」の連載経験もある実力派の先生です。

また、「魔界の主役は我々だ!」「魔入りました!入間くん if Episode of 魔フィア」などの数多くのスピンオフの監修や、週刊少年ジャンプで連載中の「魔男のイチ」の原作も担当し、ファンに働きすぎを心配されるほどの大活躍をされています。

ようこそ魔界へ!

本作の主人公は鈴木 入間くん、14歳。
トラブルメーカの両親のもとに生まれ、幼少から数々の修羅場に巻き込まれてきた経験から、人の「お願い」を断れない行き過ぎた良い子に育ちます。

「お人よし」は時に人をイラつかせる要素にもなりますが、齢1歳にしてお金儲けに連れ出され、過酷な環境で育った入間くんの境遇を考えると、大人としては「それでもお人よしに育ってくれて偉い!」と親戚のおばさんのような目線で見てしまいます。
生き抜く上で身に着けるしかなかった処世術に、同情と労りの感情が浮かんでくるばかりです。

ここまで書いて入間くんの環境を心配される方もいると思います。
ですがご安心ください。入間くんの現在の保護者はご両親ではありません。

ご両親がお金欲しさに呼び出した悪魔サリバン
サリバンは願いを叶える見返りに、入間くんを要求しとして迎え入れます。

戸惑いつつも「お願い」が断れない入間くん。
サリバンが理事長を務める悪魔学校バビルスへ入学し、ここから入間くんの魔界ライフが始まっていくのです。

オアシスのような

善意の「あってほしい」姿

角に牙、そして翼に尻尾。
体格は千差万別ながら、同級生でも見上げるほどの巨体を持つ者もいる恐ろしい「悪魔」。

そんな悪魔たちが生きる魔界は、厳格な身分制度「ランク」が存在し、当然のように生存競争が厳しい殺伐さを感じる世界として描かれています。

さて、悪魔たちに混ざり入学式に臨む入間くんですが、サリバンのおせっかいにより新入生代表挨拶を主席から奪った形で行うことになります。

その結果、本来挨拶をするはずだったアリスに決闘を挑まれることになり、なんやかんや勝ってしまう入間くん。
K.O.されたアリスを医務室に運び込んだことで、アリスから服従と尊敬を(不本意ながら)勝ち取ることになります。

「支配」か「服従」の2択の関係性が基本の悪魔にとって、入間くんの優しさは乾いた地面に浸み込む水のように有難いものでした。

子犬のように入間くんを慕うアリスの、新しい喜びが出来たことを全身で表現する様子を微笑ましく思う一方、現代の人助け事情の悲哀がちらつきます。

財布を拾って届けるのも、子供に挨拶をするのも、女性にAEDを使用するのも気を遣う世の中。
「当たり前の行動がきちんと感謝される」「お人よしが報われる」描写は、「やっぱり本来はこうあってほしい」という願望が昇華されているようです。

弱さも魅力!

所謂エリートで、主席の評価も妥当だったアリス。
か弱い人間である入間くんが決闘で勝利できたのは、ひとえに彼の特技があったからです。

それは数多くの修羅場を経験することで身についた「圧倒的危機回避能力」
相手の攻撃を回避する能力が神がかっているだけでなく、先に待ち受ける危険予知も優れています。

現在では当たり前の権利のように扱われるようになってきた「逃げ」という選択ですが、未だに良しとしない人もいるでしょう。

しかし、このストレス社会でそれを頑なに守ると、心身ともに詰みやすくなります。

入間くんの回避能力が個性・長所とされているのは「逃げてもいい」と肯定されたようで、寛容さにほっとする思いです。

魔界という荒野だからこそ

善意が中々発揮しにくく、真っ直ぐに受け取られないことに対する悲しみ。
「逃げ」に対して否定的で、我慢と抑圧を強いられる苦痛。

それらをすべて回避することはできませんが、入間くんのお人よしが悪魔たちに正しく受け入れられ、「逃げ」の得意が評価されている様子は、自分の今までの善意も報われるような安心があります。

原作漫画は25年10月現在で44巻まで発売中。
人にお薦めするにはボリューミーな作品ですが、その分多くの個性的なキャラクターが登場するので、きっとあなたが共感できる推しが見つかるはずです。

ポップでパワフルな世界で、正しく善意が報われる喜びを味わいませんか?

ではまた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました