「老後のお手本を知りたい」に効く本

感想文

辺境の老騎士
支援BIS[著]

この人生100年時代に

様々な媒体で人生の先輩方の活躍を目にします。
「自分もこんな老後を送ってみたい」と希望を抱く楽しいお手本でいっぱいですよね。

その一方、現在の自分の生活との乖離や精神的な成熟の差などを感じて「自分がこんなに素敵な高齢者になれるのか」という不安も少しあります。

そんな遥か先の未来に不安を持つ人に「精神的ロールモデル」となり得る主人公が出てくる物語を紹介します。

引退した老騎士の放浪譚

「なろう」発の人気シリーズ

「辺境の老騎士」は小説投稿サイト小説家になろう出身の「グルメ・ エピック・ ファンタジー」です。

著者は支援BIS先生
KADOKAWAにて書籍化され、全5巻で完結済みの一気読みしやすいボリュームのシリーズです。

本作の主人公は、バルド・ローエン
辺境の一貴族「テルシア家」に長年騎士として仕え、周辺にその名と武勇を轟かせた傑物です。

しかし主を取り巻く政治的状況から、主家を離れ放浪の旅に出ます。

そのバルドの旅路での出会いや、降りかかる陰謀を払うための奮闘が描かれるのが本作です。

グルメ・ エピック・ ファンタジー

本作は短編連作形式となっており、エピソードごとに印象的な料理たちが登場します。

旅先の名物を紹介するグルメ旅行記のようであり、ファンタジー世界らしい現実に無い食材で作られた料理たちが、物語の切っ掛けや、時には伏線として美味しそうに描写されます。

「あの料理に近い物か?」と想像を掻き立てられながら読むと、バルドとの感覚の共有がより深まり、物語へさらに没頭することが出来ます。

また、エピックとは英雄譚
主人公バルドは、貴人ではなく「人民」を主として騎士の誓いを立てた〈人民の騎士〉としても広く知られる人物です。

前線を退いたとはいえ誓いは健在。
行く先々で出会う人々を、高潔な誓いのもと守り助ける勧善懲悪の物語でもあるのです。

空には2つの月が浮かび、魔獣や魔剣が登場する世界でバルドの活躍が描かれます。

老騎士への憧れと共感

正しく尊敬できる先輩

主人公バルドは英雄の名にふさわしい、優しく気持ちの良い好人物として描かれています。

体は衰えても人民のために力を尽くす。
まさに騎士らしい高潔さに人生の先輩としての憧れと頼もしさを見ます。

1巻でバルドとあるキャラクターの邂逅シーンがあるのですが、そこで「老いるにしたがい身についてしまう傲慢や独善を厳しく削りながら生きてきた者」とその人物の印象が述べられます。

その一文はバルドが相手に対して感じた印象ではありますが、まさにバルドその人を言い表しているとも感じました。

先達にはこうあってほしいという理想と、自分がこの先生きていくうえでの戒めにもなるお気に入りの一文です。

英雄への共感

豊富な経験と技術を惜しみなく他者のために振るう主人公バルド。

自分とはかけ離れた高みにいる人物ではあるのですが、読み進めていくと彼に対して多くの共感を抱くことになります。

例えば、美味しい料理との出会いに驚き楽しむ様子は、読者にも想像しやすい身近な喜びです。

また、置いてきてしまった人に対する哀惜や後悔のシーンでは、自分より遥かに多くの経験を積んだ先人でも悩みや迷いは尽きないと感じ、その苦悩に共感します。

年をとり老境に入っても、若い私たちと全く違う生き物になるわけではない。
本作はそういった当たり前のことを改めて感じさせてくれる等身大の人生の先輩の物語です。

先に繋がる今

この記事は第1巻を読了した時点で書いています。
この面白い物語を、4巻分楽しめることは自慢できることでしょう。

清々しい人生の先輩。
本作から読み取った高潔さと優しさは、まさに人生のお手本の一つにしたいものでした。

私たちの老境は今あるものと共存している。
そう思うと先の景色は全くの暗闇ではなく、少し明るく身近なものなのかもしれません。

人生100年時代の灯台となる、一つの物語の紹介でした。

ではまた。

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